「これが最後と思うのが、最初の恋なんだって」
ゆかりはインスタントのコーヒーの粒をつぶしながら言った。
「そうですか」
高山は適当に相槌を打ちながら湯を入れるゆかりの手を見ていた。
彼女のピンクと白のフレンチの爪を湯気が湿らせていく。
「私ね、晴樹に初めて会った時から恋をしていたのかもしれなかった。こんなに素敵な人がいるのかと思った」
しばらく前に別れたという恋人の話らしい、と高山は思った。
かわいい後輩でいるうちに、気づけばゆかりには恋人ができている。
恋人の話を聞くたびに、気持ちのやり場のない高山は心のなかで壁を殴りつづけた。
そして悲しいかな、その時のゆかりの顔は驚くほど魅力的なのだ。
「でも終わるときは終わるのよね。なんでもそう」
粉は液体になり、湯気をあげる。ゆかりは目を伏せていた。まつげが長い。
そういえばゆかりが終わった恋の話をするのは初めてかもしれない。
「じゃあ、最後の恋はどうなるんですか」
高山は何となく言った。ゆかりはこぷ、こぷと音を立てながら角砂糖を二つ放り込む。
「最後の恋は、これが最初だと思うらしいよ」
「なかなか深いですね」
猫舌の高山は手の中のカフェオレが適温になるのを待ちながらゆかりの話を聞く。
ゆかりはぬるくなったコーヒーカップを手の中でもてあそびながらつづけた。
「私の初恋ね、たぶん、高山くんなんだ。」
初めての恋は、苦い砂糖の味がした。
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