例えば家族や友達が死に際にいるとして。
いわゆる「最期のお願い」をされたらなるべく叶えてやりたいと考えるだろう。
誰だってそうする、僕だってそうした。
兄であり弟であり親友であった双子の片割れが死んだ。
僕が覚えきれないくらいにやたらに長い名前の難しい病気だそうだ。
日に日に弱る彼の姿を見ていると自分が弱っていく様を見せつけられているようでいたたまれなかった。
彼は死ぬ少し前に僕に言った。
「俺が死んだら一つでいいから骨をうちの庭に埋めてくれよ。暗い所に一人でいるのは嫌だからさあ」
火葬場からくすねてきた骨は思ったよりもだいぶ軽く、握ったら粉々になりそうなくらいもろいものに思えた。
タオル地のハンカチで丁寧に包んで注意深くポケットに忍ばせていたが、部屋に帰るまではいろいろな意味で気が気ではなかった。
再びハンカチを開くまでは崩れているのではないか、もしかしたら粉々になっているのではないかと不安だった。
長く患っていた人間の骨はもろいとどこかで聞いた。
彼の骨がどの程度なのかは他と比べる術がないのでどうかはわからなかったが、ともかく崩れもせずに持ち帰ることができた。
真夜中を少し越えた頃、冷蔵庫に入っていたメロンソーダをおともに彼の骨を眺めた。
それは骨と言えば骨だし、河原で拾ってきた流木のなれの果てと言われればそうなのかと思うような物体だった。
骨を骨たらしめるには何か、ビニール一枚でいいから覆うものが必要で、ぴったりくっついて離れない、そんな何かが必要なのだろうか。
僕は何やら吐き気のような、腹から突き上げる言いようのない衝動を感じた。
きっと、肉と別れた骨に気持ちがあるなら今の僕と同じ気持ちなのだろう。
僕はメロンソーダのグラスに骨を沈めた。
気泡をまき散らしながら骨はメロンソーダの中を泳ぐ。
マドラーでつついてやれば骨はいともたやすく崩れた。
緑の中でぐずぐずになっていく彼を見て、僕はようやく涙を流すことができた。
僕はあらかた崩れて形のなくなった彼をグラスの中身ごと庭のまだ芽の出ていない花壇に撒いた。
僕と彼の最期の秘密はどんな色の花になるのだろう。
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