その男は無礼で粗忽で気遣いなどあってないようなものだろうと思っていた。
「ふうん」
女の顔をまじまじと見るものではない。
ことに自らの容姿に全く自信をもっていない女の顔は。
初対面で無遠慮とも言えるほどに顔を見る男に良い印象は持たない。
嫁ぎ先が見つかったという安堵に忘れかけていたが、この婚姻は熊谷と毛利を繋ぐ婚姻以外の何物でもない。
どこから沸いてきたのかは知らないが、熊谷の娘は不器量だともっぱらの評判だった。
噂をものともせず娶ろうとするその胆の据わりようは感服すべきであるし、また感謝もしている。
だが、聞けば今日より義父となった男の父に犬のような息子と称されたらしいではないか。
品定めをするがごとく視線を浴びせる男に新庄はしびれを切らし、ついに口を開いた。
「あの」
「なんだ、いうほど不細工じゃあないな…むしろかわいいかもしれん」
その男は拍子抜けするほど明るい声で言うと、ごつごつとした手で頬に触れた。
「え、あの」
「うん、かわいらしいじゃないか。愛嬌がある…うん、頭も悪くなさそうだ」
男はいとおしいものでも見るように目を細めて言うと頬に添えていた手を離し、手を握る。
「さて、これからお前は俺のものになるわけだが」
妙な生々しさを含んだ言葉に思わず目をそらしてしまう。
その様子にほほえましいものを感じたのか、男は喉の奥で少し笑ったようだった。
「一つだけ、言っておきたいことがある」
「何でしょう」
「俺より先に死ぬな」
予想外の言葉に目線を上げると、彼は笑っているような泣いているような表情をしていた。
「…わたしにできることでしたら何でも」
「お前にしかできない」
「…はい」
肯定を返すと、彼は座ったままにもかかわらず軽々と体を持ち上げ、布団に押し倒すような形をとる。
「あ、あの」
「さっき言っただろう、俺のものになると」
目をそらすと、ごつごつとした温かい手が頭を撫でた。
「かわいいな、俺の嫁御殿は」
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